一般的な遺言の意味

 まず一般的に遺言は故人が死後のために遺した文章や手紙であるとされています。もちろん遺言内容や形式についても遺言者の自由になっています。

遺言がない場合の相続について

 遺言がない場合は前回解説した法定相続分を基準として、相続人間の遺産分割協議によって遺産分割が行われることになります。日本では遺言を書く人が少ないため多くの場合はこの方式で遺産分割が行われることになります。

民法上の遺言制度

 一方で民法上の遺言制度は遺言といっても財産についての記載がメインです。遺言を活用することにより、法定相続人の法定相続分による遺産分割協議に任せるのではなく、遺言をする人の財産についての様々な指定を行うことができます。 

遺言の方式

 遺言には様々な方式があり、それぞれの形式についての要件を満たさなければ有効な遺言にはなりません。加えて遺言が有効になるためにはどの方式でも遺言者が15歳以上かつ遺言能力(遺言の内容・結果を理解できる能力)が必要です。よく使われる遺言の方式には、遺言者自身が全文・日付及び氏名を自書し、これに押印する自筆証書遺言と、証人2人以上の立会いのもと公証人が遺言者の言葉を筆記する公正証書遺言があります。

遺言でできること

 遺言では以下のような様々なことができますが、一番使われるのは「ある財産を誰々に相続させる」という内容の遺言です。これを特定財産承継遺言といいます。

①遺産分割方法の指定・禁止

 分割方法の指定として、上記の特定財産承継遺言がよく用いられます。また現物分割(現物をそのまま分割)、換価分割(換金して分割)、代償分割(取得する方がお金を払って分割)などの遺産分割の方法を指定することができます。これらの指定を第三者に委託することや、相続開始から5年まで遺産分割を禁止することもできますが、これはあまり使われません。

②相続分の指定・委託

 法定相続分とは異なる相続分を指定することができます。例えば相続分を妻4分の3、子4分の1にしたりすることができます。ただし遺留分の侵害に注意が必要です。

③遺贈

 遺言によって財産を譲与することです。誰にでも遺贈することができますが、相続手続の関係で相続人でない者に財産を譲る場合だけ「遺贈」という文言が使われることが多いです。

④遺言執行者の選任

 遺言内容が複雑な場合や家族仲が悪いなどで、遺言内容の実現が不安視される場合に選任されることが多いです。遺言執行者に弁護士などの専門家を選任することで、遺言内容を確実に実現することができます。

⑤遺言の撤回

⑥配偶者居住権の設定

 令和2年に登場した新しい制度です。配偶者居住権を利用することによって、配偶者の方が自宅に引き続き住めるようにしながら、預金などの生活費についても相続させることができる場合があります。

⑦祭祀承継者の指定

 祭祀財産はお墓や仏壇などの祖先を祀るための財産です。祭祀財産は相続財産に入らないので、祭祀承継者を別で指定します。

⑧未成年後見人の指定

 未成年後見人は亡くなった後に親権者の代わりに子供の面倒を見る人です。

⑨認知

⑩推定相続人の廃除や取消し

 財産を相続させたくない者がいる場合に記載します。推定相続人の虐待や重大な侮辱、著しい非行がある場合に家庭裁判所の審判を経て、相続権を失わせることができます。

遺言の活用例

・財産を多めに譲りたい方がいる場合

例 子供がいない夫婦で、兄弟姉妹も法定相続人になる場合に、配偶者の方に財産を全額譲りたい場合など

・特定の人に特定の財産を譲りたい

例 配偶者の方に自宅を相続させたい場合など

・法定相続人でない者に財産を譲りたい

例 子供の配偶者に財産を譲りたい場合や、法定相続人がいない場合でお世話になった方に財産を譲りたい場合

・内縁の場合

 内縁の妻や夫は法定相続人にならないため、財産を譲りたい場合は必ず遺言を残しましょう。

・親族関係が複雑で相続争いが心配である場合

 前妻の子と後妻が相続人になる場合などは血縁関係がなく感情的になり争いが起こりやすい傾向にあります。

・相続人が相続財産の調査や遺産分割協議を行う手間を軽減したい場合

 相続人にとって相続財産の調査や遺産分割協議を行うことは意外と大変です。これらの手続きを専門家に依頼する場合も当然費用がかかることになります。

・相続人の中に障がいや認知症によって判断能力が低下している方がいる場合の対策

 この場合では家庭裁判所で成年後見人の選任がなされるまで遺産分割協議を行うことができないおそれがあります。

・家業や会社を継がせたい場合

遺言によって後継者争いのリスクを減らし、円滑な事業承継を行うことができます。特に株式を複数人が相続すると思ったような事業承継ができないおそれがあるので注意しましょう。

さいごに

 最後まで見ていただきありがとうございました。今回は民法上の遺言制度や遺言の活用例を解説しました。次回はいよいよ基本的な遺言である自筆証書遺言について有効になる要件や注意点について解説します。また本記事で分からないところがありましたら、お気軽にお問い合わせください。

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