前回は様々な遺言の活用例を紹介しましたが、今回は自分自身で書く遺言である自筆証書遺言の書き方について手順を追って説明していきます。今回は自筆証書遺言書保管制度対応の遺言について解説します。
自筆証書遺言書保管制度
自筆証書遺言書保管制度は2020年に開始した、法務局が自分で書いた遺言書を代わりに保管してくれる制度です。保管制度の活用によって自筆証書遺言の手軽に作成・書き直しが可能であるというメリットを維持しつつ、遺言の紛失や改ざん、隠匿のリスクをなくすことができます。
また自筆証書遺言については、通常は相続時に家庭裁判所の検認を経る必要がありますが、保管制度を活用した場合は検認が不要になります。保管料も一生預けても一律3900円と低額です。
1 推定相続人や法定相続分の把握
遺言を書くための前提として、まず自分が亡くなった場合の相続人や法定相続分を把握する必要があります。これらについては以下の記事で解説しているので、ご不明な場合はご覧ください。
/https://okabegyosei.com/kiji/yuigon1/
2 財産の把握・調査
次に自分が所有する銀行預金や不動産、自動車、株式といった財産を把握するために書き出してみましょう。遺言に特定の財産を記載する場合は、その財産について特定できるような形で記載することが相続手続を円滑に進めるためには重要です。もちろん財産を特定せずに書くこともできます。
財産について把握すべき事項・チェックポイント
・銀行預金については、銀行名、支店名、預金の種類、口座番号、名義人
・建物の場合は法務局で登記事項証明書を取得して、所在、家屋番号、種類、構造、床面積
・土地の場合は法務局で登記事項証明書を取得して、所在、地番、地目、地積
・自動車は車検証から登録番号、種別、用途、車名、型式、車体番号
・株式は証券会社の取引報告書をチェック
3 保管制度対応の遺言 (②~⑥は保管制度を利用しない場合は不要)
保管制度に対応した用紙が市販されているので、面倒な場合はそれを使いましょう。
①遺言書は後述の財産目録を除いて、全て自書(手書き) 必ずボールペンや万年筆などで手書きしてください。
②用紙はA4で彩色や模様がないもの(一般的な罫線はok)
③用紙内の余白(何も書かない場所)が最低上部5㎜、下部10㎜、左20㎜、右5㎜以上(財産目録含む)
④片面のみに書く(財産目録含む)
⑤ページ番号を記載 (財産目録含む)
合計1ページなら1/1、3ページなら1/3、2/3、3/3とします。ページ番号は余白以外の空いたスペースに書きます。財産目録がある場合は財産目録もページ数に含めます。
⑥ホチキスをせず、封筒に入れない(財産目録含む)
4 遺言作成手順
1題名を「遺言書」としましょう。
2次に必須ではありませんが、柱書きとして「遺言者(私)○○○○は、次のとおり遺言します。」などと記載しましょう。
3財産目録を作成
財産目録の作成は必須ではありませんが、財産が多い場合は作成すると便利です。
財産目録は自書する必要はなく、パソコンで作成することもできます。登記事項証明書、預金通帳、車検証などをコピーすることによって作成するのが簡単です。コピーしない場合は前記2「財産の把握・調査」で調べた事項を記載して財産を特定できるようにしましょう。
財産目録はページごとに氏名を記載し、押印することが必要です。複数枚ある場合は、別紙1、2などと記載して区別しやすいようにしましょう。また自書以外は、遺言書と同様の用紙の余白など遺言書同様の様式が必要(日付、住所は不要)です。
4遺言内容を記載しましょう。
相続人に財産を相続させたい場合は、「~を相続させる」、相続人以外に譲りたい場合は「~を遺贈する」と記載しましょう。
特定の財産について記載する場合は2「2財産の把握・調査」で調べた事項も記載します。財産目録がある場合は例えば「別紙1の財産」などと書くことで財産の記載を省略することができます。
遺言書に記載しない財産についても、「その他の財産は○○○○に相続させる」などと記載することで、帰属を明らかにしておきましょう。
その他遺言書でできることや遺言活用例については、前回の記事で解説していますのでよろしければご覧ください。
遺留分に注意
遺留分は配偶者や子や親に最低限保証された遺産の取得分です。遺留分の額は法定相続分の2分の1で、親などの直系尊属だけが相続人になる場合のみ3分の1です。代襲相続の場合や親がおらず、祖父母が相続人になる場合には孫や祖父母にも遺留分があります。なので子がいるのに妻に全てを相続させるといった、遺留分を侵害する内容の遺言を作成すると相続争いが発生するリスクが高まります。
5付言事項
家族へのメッセージや遺言の意図などの遺言事項ではないですが、伝えたいことがあれば記載しましょう。
6必要事項
さいごに日付(吉日など抽象的なものは不可)、住所、氏名(本名)を記載し、押印します。印鑑は実印を推奨。複数枚にわたる場合はページ数の記載を忘れないようにしましょう。保管制度を利用しない場合は封筒に入れて封をしておきます。利用する場合は封やホチキスをせずに、保管しておきます。
7 訂正
遺言書の誤字などの訂正は可能ですが、訂正の様式(民法968条3項)違反があると無効になるおそれがあるので、書き直すことをおすすめします。財産目録を作成することで、書き直しの際の負担を軽減できます。
6 保管の手続
遺言が完成したら、保管制度を取り扱っている法務局に遺言保管の予約を取りましょう。住所地、本籍地、所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局に申請することができます。
手続には遺言書、保管申請書、本籍地と戸籍の筆頭者記載の住民票、運転免許証やマイナンバー等の顔写真付きの身分証明書、遺言書に使用した印鑑が必要です。申請書は以下の法務省のHPからダウンロードできます。
06 申請書/届出書/請求書等 /https://www.moj.go.jp/MINJI/06.html
さいごに
さいごまで見ていただきありがとうございました。本記事を参考にすれば、自筆証書遺言を書くことができると思います。内容について不安がある場合は弁護士、司法書士、行政書士などに相談することも検討してみましょう。次回はより確実な遺言である公正証書遺言について解説します。

